身近にある蛙化現象
タコウインナーの法則(#07454 / 2024年05月14日)の別視点からの切り口として、
些細な欠点を過剰に重視することによってやらない理由を探しているという考え方もできるのではとふと思いました。
ずっと憧れていた好きな何かに接近できたときにかぎって、
むしろそれの欠点が悪目立ちしてしまって「好き」の感情が冷めてしまうという現象。
最近、ティーンエイジャーの女子たちの間ではこの現象を「蛙化現象」と呼んでいるようです。
もともと「蛙化現象」とは熱烈な片想いをしていた相手に好かれるようになると
かえって気持ち悪いと感じるようになる、自己肯定感に乏しい女子に陥りがちのメンヘラ現象でした。
しかし昨今では、付き合っているパートナーが
恋人に求められる常識的な行動を少し逸脱しただけで恋愛感情が冷めてしまうことを言うそうです。
ここで言う冷められる行動というのは一般的には食事マナーなどが当てはまると思うのですが、
「自動改札をスマートに通れなかった」みたいな極端な事例がよく挙げられ、
どちらかというとパートナーに求める理想が高すぎる女子側を揶揄するためによく使われているようなイメージ。
もしかするとこれも偏向報道の賜物で、実際にティーンエイジャーは使っていないのかもしれません。
「ゆとり世代は円周率を約3で習っている」と同じようなものなのかも。
この令和版蛙化現象がもともとの定義から逸脱している、誤用だという意見はさておき、
同じようなことは恋愛にかぎらずいろいろな興味関心にブレーキをかけるものとして起こりうると思います。
要は、それが好きである(興味がある)という「自分」そのものは否定したくない。
しかし実際にそれを受け入れる(着手する)だけの行動力や経済力、自己肯定感などを持ち合わせていない。
そこで些細な欠点をあげつらうことによって受け入れない理由をでっち上げ、
現状維持のためにひたすら「保留」し続けるということが往々にしてあります。
最近の自分の例で言えば、たとえばAphex TwinのSAW IIがリイシューするというニュースを知って、
エレクトロニカへの興味が再燃したことがありました(#07490 / 2024年06月19日)。
しかし「再燃」したのは内的な興味だけで
そこからライブラリに楽曲を追加するという行動に移したわけではありません
(いちおう『IDM Definitive 1958-2018』を読み返して気になる楽曲を試聴するくらいのことはしましたが)。
なぜなら現状契約しているApple Musicはいわゆるステーション機能が絶妙に使いにくく、
これまでSpotifyの同等機能で楽曲を探してきた自分にはマッチしていないからです。
なのでApple Musicでは効率的に楽曲探しができない。
かといってそれだけのためにSpotifyも契約するのはコスパが悪いし……みたいなことを当時は書いています。
これは明らかに合理的な判断とは言えません。
Apple Musicのみ契約しているという条件下では、
メインジャンルではないエレクトロニカというジャンルを深掘りするためにはステーション機能は不十分である。
であればまずApple Musicにあるステーション機能以外の可能性を検討するべきであって、
契約する気も無いSpotifyでしか深掘りはできないという結論へ安易に結びつけるのは無理があります。
要は「いまは行動できないのは仕方ない!」と
面倒くさいのを言い訳できるよう恣意的に誘導しているような節がある。
エレクトロニカという文化は自分の中ではやや神聖性が高いので、
自尊心の都合で雑に着手できない事情がありどうしてもこうなりがちです。
こういう意図せず論理的に間違った展開をすることを誤謬といい、
他者の意見をリアルタイムで参考にできないブログしかり、脳内会議など単身でする思考で陥りがちな罠です。
誠実さが求められる他人とのリアルタイムな会話ではこんな恣意的な誘導はおいそれとできないでしょう。
まあ、会話においても一人称特権などを併用すればできなくはないんですけどね……。
これはわかりやすい事例ですが、新しい何かに挑戦するときや身銭を切って何かを買うとき、
結構陥りがちな思考なのではないでしょうか。
「好きだけど心理的ハードルが高い」ものは結構あり、
それらに着手しようと思えば着手できる下地があることも間々ある。
しかし、往々にしてハードルを飛ぶための勇気や行動力、キャパシティを持ち合わせていないことが多い。
かといってそれらを軽々に否定することもしたくない。
こういうときに「やらない理由」があるととりあえず逃げられるので便利なわけです。
そうすることで機会損失になったりウィッシュリストが溜まりすぎて収拾がつかなくなったりするわけですが、
分かっていてもなかなか次々に行動を起こすことはできない。
このブレーキは何か理由があって働いているのだと思いますが、現時点ではまだその正体は分かりません。