ナルシシズムを自覚する
小塩真司 『「性格が悪い」とはどういうことか ー ダークサイドの心理学』 という本を読んでいます。
最後まで行かなさそうな予感がするので感想を書いてしまいます。
この本に何が書かれているのかについては、タイトルがすべてです。
1990年代以降、心理学会で活発に語られるようになった「ポジティブ心理学」の対極として、
ネガティブな心理学、すなわち悪い性格に関する研究も進められてきました。
本書は「ナルシシズム」「サイコパシー」「マキャベリアニズム」「サディズム」
という4つのダークな性格に焦点を当て、それら性格を有する人がどのような傾向にあるかを淡々と解説します。
「ダークな性格は悪なので克服するために何ができるか」といった話は一切出てこない一方で、
ネット荒らしや出会い系アプリにおける不健全な利用とダークな性格の有意な相関性が示されるなど、
それらが多かれ少なかれ「反社会性」や「非社会性」を有していることが説明されています。
ここで、本書を参考に各ダークな性格についてごく簡単な説明を加えるとこんな感じになります。
- ナルシシズム:自分自身は特別であると信じ、賞賛や承認に飢え、それが得られないと機能不全に陥る傾向。
- サディズム:他者に肉体的・精神的苦痛を与えることを厭わず、それを見ると快楽を感じる傾向。
- マキャベリアリズム:自己の利益のためならば他人を無慈悲に利用しても構わないと考える傾向。
- サイコパシー:感情反応が冷淡で自己コントロールができず、衝動的な傾向。
断っておきたいのは、これらは「当てはまる」「当てはまらない」の2択ではないということです。
どんな人もある程度は当てはまっているものの、個々人によって程度の違いがあるというだけです。
ただし、日常生活に支障が出るほど極端になると精神病としてみなされるというわけですね。
さて、当ブログの読者ならピンと来たかもしれませんが、自分はナルシシズムの傾向が強いと思っています。
いわゆる「自己愛」が一般的な人と比べてかなり強く、特別でありたいという欲求に抗えません。
だからこそ長年、承認欲求に関する悩みと戦い続けているし、
2022〜2024年にマイブームとなった「無能であることを受け入れるべき」という思想も、
根本にはそもそも自分はナルシズム傾向が強いからという性格的な問題があります。
では、この性格はどこから来ているのでしょうか。
やや他責的な主張になってしまいますが、
自分は思春期前期における社会的な風潮も決して無視できないと思っています。
それを象徴する楽曲として、2002年に一世を風靡した楽曲にSMAPの『世界に一つだけの花』があります。
No.1 にならなくてもいい もともと特別な Only One
あまりにも有名な歌詞なので引用するまでもないのですが、
これに象徴されるように、当時は「みんな違ってみんな良いんだ」というような風潮が強くありました。
単一的な競争原理を否定し、個を大切にする。それ自体は大事なことだと思うし、
実際に昨今の教育現場では体育祭では順位を決めず、期末テストでも順位を出さないようになっているそうです。
まぁそれは競争原理を否定するというよりはただ単に「隠しているだけ」なのですが。
ともあれネットの発達によってニッチな活動が注目される可能性はここ20年でかなり大きくなってきたように感じられ、
表面上は「世界で一つだけの花」がより活躍できるような社会にはなってきていると思います。
一方でいわゆる努力のできない人にとっては地獄のような環境だし、
自分もそういう意味での生きづらさをまったく感じないと言ってしまうと嘘になりますが……。
しかし、このメッセージにはナルシシズム的傾向を正当化する強いチカラも宿っていると思います。
自分も、個性が大事なのだと言われ続けて育った結果、
「自分は特別である」という自覚は正しいものだとずっと思い込んでいました。
結果的にこの歪んだ自己愛性を自覚するまでにものすごい年月がかかってしまいました。
その間に生み出した不完全燃焼の黒歴史は数知れず、嫉妬に溺れたことで失ったものはあまりにも膨大です。
20年間でかなり良い方向へ向かったとはいえ、実社会において競争原理はいまだ根強くあり、
実際には凡人以下なのに「自分は特別だ」と思い込むことは行動力の面からかなり負のファクターとなりえます。
ナルシシズムは誇大妄想に耽溺しやすい傾向があり、妄想と現実の間にはものすごい隔たりがあります。
妄想に入り浸っている間は何も行動しようがないので、当然それは誰も認めてくれない。
なんとか頑張って成果を生んだとしても、それも妄想上の出来栄えとは比べ物にならないほど拙いのが当然です。
この辺はナルシシズムに特有の「行動の壁」があるような気がしてならない。
本書にはダークな性格を持つ人の困難に対する処世術が載っているものかと期待していましたが、
そこまでは書かれていませんでした。
とはいえ、自分がナルシシズム傾向の強い人間だと改めて自覚する契機になったのは良かったと思います。